労働法の基礎知識
管理監督者
管理監督者とは
管理監督者とは、経営者と一体的な立場にある者のことをいいます。
労働基準法第41条第2号では、「監督若しくは管理の地位にある者」(以下「管理監督者」といいます)については、「労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない」と定められております。
この条文の趣旨は、経営者と一体的な立場にあって、自分自身が労働時間についての裁量権を持っているような者については、労働基準法による「保護」がなじまないという理由に基づくものです。
この「管理監督者」とは、「一般的には部長、工場長など労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にあるものの意であり、名称にとらわれず実態に即して判断すべきもの」とされています。(昭63.3.14 基発第150号)
労働基準法の「管理監督者」と、一般的に呼ばれる「管理職」は異なります。
管理監督者に該当するかどうかは、役職名ではなく、次のような判断基準によって実態に応じて判断されます。
- 労働時間の管理を受けていない タイムカードなど時間に縛られるのではなく自分の裁量で働ける環境が整えられている
- 賃金面での待遇 職務の重要性に見合う十分な役付手当等が支給されているか否か、賞与について一般労働者に比べて優遇措置が講じられている
- 一定の権限があり管理的な仕事をしている 経営方針など経営に関する重要事項の決定に参画する権限を有している、または労務管理に関する指揮監督権限のいずれかを有している
管理監督者は、経営の管理者的立場にある者又はこれと一体をなす者であり、労働時間や休憩、休日についての規制を超えて活動しなければならないという事業経営上の必要から労働時間などの適用除外が認められるなど、通常の社員とは違った扱いを受けます。
ただし、管理監督者であっても、深夜業(22時から翌日5時まで)の割増賃金は支払う必要がありますし、年次有給休暇も一般労働者と同様に与える必要があります。
また、年次有給休暇、解雇、災害補償などについても、一般の労働者と同じく取り扱われます。
名ばかり管理職
名ばかり管理職とは、十分な権限や裁量もない,肩書だけ管理職(課長、係長、店長等)のことをいいます。
営業マンや記者のように1日の大半を社外で労働する業務や、デザイン作成などの業務の遂行方法を労働者本人の裁量に委ねる必要がある業務など、実際に何時間仕事をしているかを正確に把握することができない業務に従事する者については、通常の労働時間の算定は困難であることから、実際の労働時間にかかわらず、決めた時間を労働時間とみなすことを認めているのです。
発生する要因は、
①使用者が管理監督者の適用除外規定を単に知らないで、または、理解していないで、「名ばかり管理職」をつくってしまった場合と、
②役職手当を支払う代わりに、割増賃金を支払わないなど“人件費削減”の場合、
の2つが考えられます。
②の場合、通称「管理職」は労働基準法における労働時間、休憩及び休日に関する規程の適用除外者になるため長時間労働の過酷な勤務を強いられることになります。
近年では大手ファーストフードチェーンやコンビニエンスストアなどサービス業界の店長が、「名ばかり管理職」である場合に未払い賃金の支払いを求めて、訴訟を起こすケースも増えています。
管理監督者に関する主要な判例
平成11.6.25 大阪地裁判決 関西事務センター事件 |
「監督管理者とは、従業員の労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいうと解すべきところ、課長に就任したことによって原告が従業員の労務管理等について何らかの権限を与えられたとの主張立証はなく、役職手当が支給されたり、多少の優遇措置が採られるようになったことは認められるものの、これらのみでは、監督管理者に該当するとはいい難い」 |
昭和61.7.30 大阪地裁判決 レストランビュッフェ事件 |
「店長は、コック等の従業員6~7名を統制し、ウエイターの採用にも関与し、材料の仕入れ、売上金の管理等も任され、店長手当月額2、3万円を受けていたとしても、営業時間午前11時から午後10時までは完全に拘束されて出退勤の自由はなく、仕事の内容はコック、ウエイター、レジ係、掃除等の全般に及んでおり、ウエイターの労働条件も最終的には会社で決定しているので管理監督者にあたらない」 |
昭58.7.12 大阪地裁判決 サンド事件 |
「課長に昇進後は大阪工場内の人事等にも関与したが、独自の決定権を有していたものではなく、上司を補佐し、上司から与えられた仕事をこなしていた域を出ないものであって、被告の重要事項についての決定権限はなかったこと・・・その職務内容(質及び量)・給料・勤務時間の取扱等について、右課長昇進前後でほとんど差異がなかったのだから、労働基準法41条2号の管理監督者には該当しない」 |
昭和53.3.26 静岡地裁判決 静岡銀行事件 |
「欠勤・遅刻・早退をするには、事前或いは事後に書面をもって上司に届出なければならず、正当な事由のない遅刻・早退については、人事考課に反映され場合によっては懲戒処分の対象ともされる等・・・出退勤の自由がなく・・・部下の人事及びその考課の仕事には関与しておらず・・・経営者と一体となって銀行経営を左右するような仕事に全く携わっていない。から管理監督者に当たらない」 |
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