労働法の基礎知識
整理解雇
整理解雇
「整理解雇」は、企業が業績悪化した場合に行なう人員整理でありますが、労働者側の原因では無く、企業側の事情によるものでありますので、一定の制限があります。
法令で定められている解雇禁止事由に抵触しないことや、事前に解雇の予告を行うことは当然として、以下の4つの要件を満たしている必要があります。
※判例によっては、必ずしも、4要件すべてを満たしている必要は無く、「4要素である」と解しているものも、いくつかあります。
- 1 人員整理の必要性
- 企業の維持存続が危うい程度に差し迫った必要性が認められる場合や、企業が客観的に高度の経営危機下にある場合など、相当な理由な必要です。
- 2 解雇回避努力義務の履行
- 事業所の縮小や役員報酬の削減、新規採用の抑制、その他の経費削減、等によって、解雇を回避するための相当の経営努力がなされ、やむを得ないと判断される必要があります。
- 3 被解雇者選定の合理性
- 人選基準において、性別や部署、性格などの不合理な差別が無く、客観的に合理的で公平である必要があります。
- 4 事前説明の必要性
- 事前に充分な説明や協議などを行ない、納得を得るように努力を行ってきたと認められる必要があります。
整理解雇に関する判例
整理解雇に関する主要な判例としては、以下のようなものがあります。
H6.3.30 大阪地裁「シンコーエンジニアリング事件」 ※人員整理の必要性
「解雇は労働者に対し社会的経済的に極めて大きな影響を与えものであり、しかも、本件のような余剰人員の整理を目的の一つとする解雇(整理解雇)は、労働者に特段の責められるべき理由がないのに、使用者の都合により一方的になされるものであることから、たとえ、企業合理化のためにいかなる経営施策を講ずるかが経営者の固有の権限に属するとしても、その有効性の判断は慎重になされるべきである。」
S58.10.27 最高裁第一小法廷 「あさひ保育員事件」 ※解雇回避努力
「園児の減少に対応し保母2名の指名解雇を行った事件で「事前に、被上告人を含む上告人の職員に対し、人員整理がやむを得ない事情などを説明して協力を求める努力を一切せず、かつ、希望退職者募集の措置を採ることもなく、解雇日の6日前になって突如通告した本件解雇は、労使間の信義に反し是認することができないとした原判決に所論の違法はない。」
S52.2.25 青森地裁八戸支部 「八戸鋼業事件」 ※解雇回避努力
「希望退職者の募集、関連会社への出向など解雇を回避するための努力を怠り、再就職のあっせんなど従業員の犠牲を最小限にする努力も怠った。」
H7.3.29 大阪地裁 「土藤生コンクリート事件」 ※被解雇者選定の合理性
「単に債権者らに右通告をして、移籍か労働条件切下げに従わない者を解雇とするというに過ぎないことが認められる。
(中略)結局、本件解雇は解雇権の濫用として無効であるといわざるをえない。」
S46.12.21 津地裁 「タチカワ事件」 ※被解雇者選定の合理性
「解雇基準を定立しこれに基づき被解雇者を選定するという配慮をしなかったことは、著しく信義に欠けるものであって、右解雇権の行使は権利の濫用として無効である。」
H7.7.27 大阪地裁 「日証事件」 ※事前説明の必要性
「使用者は、解雇の必要性と時期・規模・方法につき説明を行い、協議すべき信義則上の義務を負う。
説明義務は使用者に課せられた重要な義務であり、結果的にみて本件解雇は避けられぬものであったにせよ、これらの事実を持って瑕疵が治癒されたとは言い難い。
解雇の遅れによる人件費の増大を危惧するが、それ故に全く抜き打ち的な解雇が是認されるわけではない。
本件解雇は、整理解雇の4要件のうち、説明協議義務を尽くすことなくなされたものというべきであるから、無効というほかない。」
労働法の基礎知識 | |
賃金 | 労働時間 |
賃金とは 賃金支払の原則 賃金債権の時効 |
労働時間の原則 労働時間の計算 残業代の計算方法 適用除外者 管理監督者 |
解雇・退職 | セクハラ |
退職勧奨・退職強要 退職届の撤回・取消 解雇権濫用の法理 普通解雇 整理解雇 懲戒解雇 雇い止め |
対価型セクハラ 環境型セクハラ 証拠の収集方法 PTSD逸失利益 |
その他 | 統計資料 |
労働条件の引き下げ 配転・出向・転籍 職場いじめ パワハラ 会社からの損害賠償請求 内定取消し |
厚生労働白書 残業代不払い是正状況 刑事事件摘発事例 |